最近ではあまり見られなくなりましたが、昔は軒下などに柿を吊るして、干し柿を作る風景がよくありました。
柿が干してあるのを見ると、秋が深まったのを感じますよね。
生で食べるのは甘柿、干し柿にするのは渋柿というのは知られていますが、渋柿を美味しく食べる方法は干す他にもいろいろあります。
干し柿と似ているのが「あんぽ柿」ですが、あんぽ柿は干す工程の他に硫黄を使って燻蒸しています。
また、「会津身不知(みしらず)柿」は焼酎またはエチレンガスを使って渋を抜いています。
古くからいろいろな工夫によって編み出された、渋柿を美味しく食べる方法を紹介していきます。
甘柿と渋柿の違いは?
甘柿と渋柿、それぞれの種類
柿には大きく分けて「甘柿」と「渋柿」がありますが、もっと細かく分けると「不完全甘柿」「不完全渋柿」の4種類になります。
柿の渋味の元になるのが「シブオール」というタンニンで、果実中の水分に溶け出すことで渋味となります。
甘柿
甘柿はシブオールが不溶性の状態で含まれるため、渋味はなく生のままでも甘い柿です。
主なものは富有柿や次郎柿で、スーパーの店頭でもよく見かけます。
不完全甘柿
不完全甘柿は1つの木の中に甘柿と渋柿が混在することがあり、種が出来ると甘くなる性質がありますが、種ができない場合もあり、そういった時には渋柿になります。
不完全甘柿には西村早生(にしむらわせ)や筆柿などがあります。
渋柿
渋柿はシブオールが水溶性の状態で、口にすると渋味が口いっぱいに広がるため、そのままで食べることはまずありません。
干し柿にするなどして渋を抜き、甘くして食べる工程が必要になります。
主なものは高級干し柿としても知られる市田柿や、富士柿、西条柿など多くの品種があります。
不完全渋柿
不完全渋柿は種の周りだけ渋味が抜けて甘くなりますが、果肉は渋いままなので、やはり渋抜きをする必要があります。
主なものは平核無柿(ひらたねなしかき)や会津身不知(あいづみしらず)などです。
渋柿は実は糖度が高い
渋柿には甘みがないと思われがちですが、タンニンに隠れているだけで甘みはしっかりあります。
糖度は15~16度と、りんご(約14度)よりも高く、マンゴーとほぼ同等です(品種にもよるため一概には言えませんが)。
干し柿がとても甘いのは、渋が抜けて甘みが凝縮しているためで、元々の糖度が高いからこそです。
渋柿を美味しく食べる知恵
あんぽ柿
あんぽ柿は干し柿の一種ですが、中がとろりとしたゼリー状のようになっていてやわらかいのが特徴です。
渋柿は皮を剥くと色が黒ずんでくることが多いですが、皮を剥いて干す前に硫黄で燻蒸することで酸化による黒ずみやカビを防ぎ、水分を保ったままで甘みを凝縮させます。
硫黄、というと身体に悪影響があるのでは?と思ってしまいますが、干す工程で全て揮発されるため、害はないそうです。
あんぽ柿は福島県の伊達市がとくに有名な産地で、随分前ですが銀座で「伊達のあんぽ柿」を干す様子が実際にディスプレイされていたので、思わずカメラを向けました。
ころ(枯露)柿
枯露柿は干し柿の中でも水分量が極限まで少なく、糖が白い結晶化して表面が粉をふいたように白くなるのが特徴です。
「市田柿」といわれることもありますが、市田柿は枯露柿の一種で、長野県下伊那郡の市田地域で栽培されていた柿を干して作られたものです。
渋柿の皮を剥いて天日に干し、乾燥させることで渋を抜きますが、柿渋は乾燥によって渋み成分のタンニンが水溶性から不溶性に変化することで渋味を感じなくなります。
柿を干している風景は「柿すだれ」ともいわれ、晩秋の風物詩ですよね。
枯露柿は水分量が25~30%とかなり少なく、甘みが凝縮しています。
白い粉状の糖分に覆われた中は羊羹のようにもっちりとした食感で、お茶うけに最適です。
会津みしらず柿
会津みしらず柿は、干し柿とは異なりますが渋柿を甘くして食べるという意味では一緒です。
みしらず柿のふるさとである福島県会津地方では甘柿がよく育たず、渋柿がよく実ったといわれています。
当然ながら会津みしらず柿の原料も渋柿ですが、あんぽ柿や枯露柿とはまた違った方法で渋抜きをしています。
みしらず柿は皮付きの状態で焼酎またはエチレンガスを利用して渋を抜きます(この工程を「さわす(醂す)」といいます)。
渋を抜く処理をしたみしらず柿は箱詰めされて出荷となりますが、面白いのが「〇月〇日に開封してください」と箱に但し書きがされていることです。
指定日に食べ頃を迎えるので、それ以前に待ちきれず開けてしまうと渋が抜け切れていないといったことになります。
みしらず(身不知)柿の名前の由来は「身の程を知らぬほどたくさん実を付ける」や、将軍に献上した際に「こんなおいしい柿は今まで知らなかった」と言われた説、美味しすぎて身体のことも考えず食べ過ぎてしまうなど諸説あります。
「あんぽんたん」とは?
あんぽんたん、というと人を罵る時に使われる言葉ですよね。
私の生まれた福島県福島市では、渋柿を収穫せずにおいて実が過熟で柔らかくなり、渋味が抜けて甘くなった状態を「あんぽんたん」と言っていたようです。
(福島市全域でそう言われていたかはわかりませんが、祖母も母もそう言っていました)
ある時、生の渋柿をもらって放置していたら実がぶよぶよに柔らかくなり、食べてみるととても甘くなっていました。
「あんぽんたん」という言葉をそんな風に覚えていた私、上京して友人の前で「柿をあんぽんたんにして食べる」と言ったら見事に通じず、爆笑されました……^^;
どうやら地域限定の方言みたいなものでした。
まとめ
晩秋になると軒下に柿を吊るしている風景は、かつてはよく見られたものでした。
渋柿の皮を剥いて干すことによって渋味が抜けて甘く美味しくなりますが、干し柿の他にも渋を抜いて食べる方法があります。
硫黄で燻蒸してから乾燥させる「あんぽ柿」、しっかりと乾燥させることで糖分が結晶化して甘みが凝縮される「枯露柿」、焼酎やエチレンガスで渋を抜き、一定の期間寝かせて食べる「みしらず柿」など、先人の知恵が現代に受け継がれています。
もともとは甘柿よりも渋柿の方が糖分豊富なので、工夫をすることで美味しく食べることができるのです。