寒い日に食べたい汁物料理の一つ「けんちん汁」。
大根や里芋、人参、ごぼうなど根菜をたっぷり摂れてヘルシーですよね。
けんちん汁は鎌倉のお寺での精進料理が由来とされていますが、最近では肉を入れて作る人も多いようで、豚汁との区別もつきにくくなっている印象です。
時代の流れでレシピも変わりつつありますが、時には精進料理としてのけんちん汁も楽しみたいものです。
けんちん汁の由来
鎌倉の建長寺の精進料理「建長汁」
鎌倉にある臨済宗の禅寺、建長寺で修行僧が作っていた汁物がけんちん汁の由来といわれています。
精進料理なので動物性の食材を一切用いず、大根、里芋、人参、ごぼうといった根菜類にこんにゃく、豆腐が主に使われます。
建長寺で作られていたから建長寺汁といわれていたのが、いつしか変化して「けんちん汁」になっているとされていますが、「けんちん」は別の料理を指すという説もあります。
普茶料理や卓袱料理、お菓子にも「けんちん」がある!?
中国から伝えられた精進料理「普茶料理(ふちゃりょうり)」の一つで、根菜類やしいたけなどの具材を細く切って炒め、油揚げで巻いて油で揚げたものを「巻繊(けんちん)」といいます。
他にも、根菜と豆腐を油で炒ったもの、それをあんかけ料理にしたものなど様々な料理に「けんちん」という名前が付いています。
長崎県のおもてなし料理である卓袱(しっぽく)料理にも「けんちん」が存在し、細切りにした根菜を油で炒めて豆腐を崩して加え、湯葉などで巻いて油で揚げたものです。
その他にも野菜を炒めてあんかけにしたものなど、様々な料理に「けんちん」という名が付いていますが、共通するのは肉や魚を使わない精進料理である点です。
変わり種では大分県中津市の郷土菓子で、キクラゲや銀杏などの具材に葛粉や小麦粉、砂糖を加えて蒸したものが「巻蒸(けんちん)」として知られています。
けんちん汁に肉は入れる?
本来、動物性素材は使用しない
けんちん汁には肉や魚介類は使用せず、出汁もかつお節や煮干しではなく昆布や椎茸から取ります。
根菜類にこんにゃく、豆腐といった植物性の素材だけで作るのが決まりで、こんにゃくを肉に見立てたようにも思えます。
ところで、筆者がけんちん汁を初めて食べたのは小学校の給食でした。
献立表に「けんちん汁」という聞き慣れない名前がありましたが、大根や人参、ごぼうや長ねぎに加えて、豚肉が入った味噌仕立ての汁だったので、けんちん汁=豚汁という認識になっていました。
本来は精進料理であるはずのけんちん汁ですが、子供が食べやすいように肉を加えたのかも知れません。
肉を使った現代風アレンジもあり!
学校給食のみならず、現代風のけんちん汁は豚こま切れ肉や鶏もも肉など、各家庭でそれぞれに好きな具材を入れて美味しく食べるのが一番だと思います。
本来は醤油で味付けをしたすまし汁ですが、味噌で仕上げて豚汁風にしても良いですし、豚こま切れ肉や一口大の鶏もも肉などを入れるとお子さんにも食べやすくなります。
きのこ類を入れたり、油揚げや厚揚げなどを入れてアレンジしてみたりと、現代風のけんちん汁を楽しむのも良いですね。
我が家のけんちん汁レシピ
きっかけは銀行のパンフレット
前述の通り、学校給食のけんちん汁の印象が強かったため、けんちん汁と豚汁の区別は正直付いていませんでした。
就職して間もない頃、お遣いのため銀行ATMで入金作業をしていた時にふと目に付いたのが、銀行の封筒と一緒に置かれていた小さなパンフレットです。
「定期預金のご案内」などが書かれた三つ折りのパンフレットの最終ページに、季節の話題として載っていたのがけんちん汁のレシピでした。
けんちん汁を豚汁と変わらないものと認識していた筆者にとって、肉を使用せずに根菜をごま油で炒めてから煮込むという手順はいわばカルチャーショックでしたが、シンプルに「美味しそう」と思い家でも作ってみました。
ごま油の風味が深いコクとなり、野菜のうまみがじんわりと感じられてお気に入りのレシピとなりました。
けんちん汁「わが家流」
当時のパンフレットはいつの間にか紛失し、特にメモも取っていなかったため(写メには少し早い時代です)今となっては記憶のみになりますが、時々思い出しては作るレシピを紹介します。
(材料)※一度にたっぷり作るので多めに&使い切りやすい分量にしています。
- 里芋 … 5個
- 大根 … 1/4本ほど
- 人参 … 1本
- ごぼう … 1本
- こんにゃく … 1枚
- 木綿豆腐 … 1丁
- 長ねぎ … 2~3cm(刻んでおく)
- だし汁 … 1リットル
- しょうゆ … 大さじ3(お好みで加減してください)
- ごま油 … 大さじ2
- 里芋は皮を剥いて1cm幅に、大根と人参は大きめのいちょう切りにします。
- ごぼうは乱切りまたはささがきにして、酢水に浸けてアクを抜き、こんにゃくは手でちぎっておきます。
- 鍋にごま油を熱して根菜類とこんにゃくを炒め、全体に油が回ったら木綿豆腐を手で崩しながら入れてさらに炒めます。
- だし汁を加え、野菜が柔らかくなるまで煮込み、しょうゆで味を調えます。
- 器に盛り付け、刻んでおいたねぎをあしらいます。
長ねぎは具材として加えるやり方もありますが、我が家では刻んでトッピングしています。
余ったけんちん汁のリメイクレシピ
我が家ではけんちん汁を一度にたっぷり作るので、2~3日食べても余ることがあります。
さすがに飽きるので、リメイクして最後まで楽しんでいます。
けんちんそば、うどん
けんちん汁のリメイクといえばけんちんそば、けんちんうどんが定番です。
ご飯に合わせるのとはまた違って飽きずに食べられますし、味変をしたり具材を追加したりといった楽しみもあります。
そばやうどんにリメイクする際には少し味を濃くしますが、しょうゆの他に液体みそ、めんつゆ、うどんスープなどで味の足し算をするのもおすすめです。
油揚げを足すとコクが出ますし、冷蔵庫で少しだけ余っている鶏肉や豚肉を加えても美味しく食べられます。
カレーや雑炊、卵とじに
具材が多く残った時には、玉ねぎやお肉を足してカレーにしてしまうのも手です。
だし汁がベースになっているので、カレーうどんにもよく合います。
具材よりも汁の部分が多く残った時は、余ったご飯を入れて雑炊にしたり、鶏肉を加えて卵でとじたりしても最後まで美味しく食べられます。
まとめ
けんちん汁は精進料理を発祥としている具沢山の汁物料理で、寒い時期に食べたいメニューの一つです。
鎌倉の建長寺をルーツにしている説が一般的ですが、中国から渡ってきた精進料理をもとにした様々な料理に「けんちん」という名が付けられています。
精進料理がもとになっているため、本来は肉など動物性の素材は使用せずに作られていましたが、時代の流れと共に肉を入れたりするなどアレンジされるようになりました。
アレンジやリメイクも楽しみながら、けんちん汁の由来の思いを馳せてみてはいかがでしょうか。